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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(ク)30号 決定

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は、抗告人等の連帯負担とする。

理由

抗告理由は「一、抗告人は昭和二三年政令第二〇一号(以下政令二〇一号と略称)違反容疑者として勾留されたのである。抗告人は原決定の理由説示にあるような趣旨で、政令二〇一号が憲法に違反した無効なものであり、従つて拘束は不当であることを主張して人身保護法に基づく釈放を求めた。二、然るに原決定は人身保護規則第四条を根拠として本件請求を棄却した。然し同条には「法令の定める方式又は手続に著しく違反し」とあり、単に形式的な法令の方式、手続に違反した場合でさえ救済の道を講じているのであつて、まして罰すべき法令が存在しないか、又は憲法に違反し無効なること明らかな場合(抗告人はこれを疏明した)には「勿論解釈」から、これを救済せしめる法意なることは当然である。これこそ正に人身保護法の崇高なる理想であり、これを除外するが如きことは法の精神から断じて許容し得ない。三、本件請求が政令二〇一号の違憲無効を論拠として拘束の不当を主張したのに対しこれを棄却したのは明らかに抗告人の憲法違反の主張を否定したものであり、これは不当である。よつて、抗告人の政令二〇一号が憲法に適合しないとの主張につき更に最高裁判所の判断を求めるため本件特別抗告をした。」と云うにある。

よつて按ずるに抗告人等の原審に対する請求は、抗告人等は昭和二三年政令第二〇一号違反の嫌疑により、勾留状により金沢刑務所に勾留されているが、右政令第二〇一号は憲法に違反し無効であり、従つてこれに基づく拘束は不当であるから人身保護法により釈放を求めるというのである。これに対し、原決定は、「人身保護規則第四条によれば、裁判による拘束に対する救済の請求は、拘束に関する裁判が、その権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができるのであるが、抗告人等の請求は、被疑事実の無罪を主張するものであつて、右の場合に該当しない」という理由で、抗告人等の請求は、被疑事実の無罪を主張するものであつて、右の場合に該当しない」という理由で、抗告人等の請求を排斥したことが判文上明白である。即ち、原決定は、抗告人等の憲法違反の主張については、直接的にも間接的にも、又明示的にも黙示的にも全然判断をしていないことが明かであつて、原決定には、憲法違反の問題の起る余地はない。原決定に対する抗告は憲法違反を理由とするときにのみ許されるのであるが、抗告人等の原決定に対する非難は、結局、原審のなした前示人身保護規則第四条の解釈適用を攻撃するに帰着し、憲法違反を理由とすることにならないから、当裁判所に対する抗告適法の理由とならない。なお、抗告人等は、昭和二三年政令第二〇一号が憲法に適合しないとの主張につき判断を求めるというが、右主張は、原決定の当否とは全然関係のないこと前示のとおりであるから、この主張だけについて判断を求めるため、当裁判所に抗告を申立てることが許されないことは勿論である。よつて本件抗告は不適法たるを免れないから、これを却下すべきものとし、抗告費用は抗告人等に連帯して負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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